血縁なくても父子?(DNA型鑑定訴訟)
2014年9月22日目次
事件のあらまし
- DNA鑑定の結果、夫以外の男性との間にできた子であることが判明したので、母が子の代理人となって夫を相手取り父子関係不存在の確認を求めた事件
- 夫が子2人を相手に父子関係不存在の確認を求めた事件
この二つの類型で血縁関係がなくても父子であるかどうかが問題となりました。
法的な問題点
DNA型鑑定で血縁関係がないことが明らかになった場合に法律上の父子関係を取り消すことができるかが問題になりました。
この事件で法的な問題点は、嫡出(ちゃくしゅつ)推定規定(民法772条1項)をどう考えるかにあります。
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
この規定は、妻が婚姻中に妊娠した子を夫の子と推定する、という意味です。
“推定”というのは、反証により覆すことはできますよ、という意味です。
つまり、
- 妻が婚姻中に妊娠した子は原則として夫の子と扱います。
- 夫の子ではないという事実が明らかであればその推定を覆し夫の子とは扱いません。
ということを規定しているわけです。
判決の骨子(産経新聞7月18日)
- 生物学上の父子関係がないことが科学的証拠から明らかで、父母が離婚しているなどの事情があっても、子の身分の法的安定を保つ必要性はなくならない
- 民法は法律上と生物学上の父子関係が一致しないことを容認している
- 懐胎時期に夫婦関係がなかったことが明らかならば嫡出推定を受けないが、今回はそうした事情はない
最高裁判所の結論
最高裁判所第1小法廷(白木勇裁判長)は、2014年7月17日にDNA型鑑定で血縁関係がないことが明らかになった場合でも法律上の父子関係を取り消すことはできないと結論づけました。
最高裁判所の結論の影響
たとえば、妻乙が夫甲と婚姻中に別の男性Aと交際し、その交際相手Aとの間に子Bができた場合、妻乙が夫甲と離婚して交際相手Aと婚姻し、現在は乙ABと3人で暮らしていても、そしてDNA鑑定の結果、子Bの血縁上の父がAであるとしても、法律上の父は夫であった甲ということになります。
最高裁判所の判断は、生活実態・血縁上の父子関係よりも民法上の父子関係を重視したことになります。
法的分析
この最高裁判所の結論の妥当性を論じる前提として民法772条の解釈を確認しておく必要があります。
条文を再掲します。
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
妻が産んだ子が夫の子であるかは妻以外は知らないわけです。あるいは妻も知らないかもしれません。
誰が血縁上の父であるかをいちいち調べていたのでは血縁上の父の死亡により生じる相続において子が相続人ではないことになるなどの不利益が子に及びます。
父親を早期に決定することは子の福祉の観点から不可欠です。
そこで、民法は上の嫡出推定規定(民法772条1項)を設けたわけです。
親子関係の早期確定
という嫡出推定規定の趣旨からすると、その推定を容易に覆すことは避けるべきです。
民法772条の解釈上、推定を覆すことができるのは、懐胎時期に夫婦関係がなかったことが明らかな場合とされています。
具体的には、懐胎時期に
- 夫が刑務所にいた
- 遠洋漁業に出ていた
などの場合です。
今回の事件は、懐胎時期に夫婦関係がなかったことが明らかとは言えない、ということで嫡出推定を覆さなかったわけです。
民法772条1項の親子関係の早期確定という趣旨からすると、血縁関係よりも法律上の父を優先するという、この最高裁判所の判断は素直だと思います。
公平の観点から、これまでの民法解釈との整合性を最高裁判所は重視しますから法的にはこの判断にならざるを得ないように思います。
妥当性について
ですが、その結論に妥当性があるのかどうかは検討の余地があるでしょう。
民法は私法の基本法ですから、国会で慎重に議論をして国民が自ら家族をどう扱うべきかを議論する必要があると思います。