NHKと契約義務はあるのか?

2016年11月10日 0 投稿者: 行政書士 真栄里 法務事務所

約2,300字(読了≒4分)

受信料支払い義務を巡る争い

 自宅にテレビを設置しているにもかかわらず、NHKと契約をせずに受信料を払わない男性をNHKが訴えた裁判が、11月2日に最高裁大法廷へ回付されました。
 大法廷へ回付されたということは、NHK契約義務について初の憲法判断が下されるということです。

何が争われているのか?

 さて、この裁判では何が争われているのでしょうか。
 放送法第64条に以下の規定があります。

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

 ここで、注意する必要があるのは、

・・・契約をしなければならない。

という文言です。
 つまり、テレビを設置した者は、NHKと受信契約を結ぶ義務があるのです。
 義務ですから、テレビを設置した以上は嫌でも契約を結ばなければなりません。NHKの番組を見ていないから受信契約を結ばないとは言えない、さらには受信料は支払わない、と言えないわけです。
 これが、財産権(憲法29条)を侵害し違憲だと男性側は争っているのです。

違憲になるのでしょうか?

 最高裁が、この事件について違憲と判断するのか、合憲と判断するのかに注目が集まっています。
 この記事では、財産権を巡るこれまでの最高裁の考え方を基にこの事件の結論の予測をしてみたいと思います。

財産権制約を許す方向で考えるのか?許さない方向で考えるのか?

 これについては、最高裁は、財産権制約を基本的に許す方向で考えています。つまり、財産権の制約を合憲と推定しています。
 表現の自由(21条)に関しては逆で、表現の自由の制約は違憲と推定しています(専門用語では、「二重の基準」と言います)。

立法目的による審査基準の使い分け

 合憲かどうかを判断する際の基準のことを「審査基準」と言います。
 財産権を含む経済的自由権の制約について、最高裁は、立法目的に応じてその審査基準を使い分けています。
 弱者保護のような目的(積極目的)を持つ制約についてはかなり緩やかな基準(明白性の基準と呼ばれます)を用い、弊害防止など秩序維持のような警察的目的(消極目的)を持つ制約については厳しい基準(厳格な合理性の基準と呼ばれます)を用いています(専門用語では、「規制目的二分論」と言います)。
 つまり、

ある制約が積極目的を持っている場合は、その制約は違憲となりにくくなり、
ある制約が消極目的を持っている場合は、その制約は違憲となりやすくなる、

ということです。

積極目的?消極目的?

 ここで、以上の最高裁の考え方を基に検討してみましょう。
 もう一度、放送法を見てみます。特に問題となるのは第1条の目的規定です。

(目的)
第一条  この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一  放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二  放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三  放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

 さて、積極目的?消極目的?どちらでしょうか?

“公共の福祉に適合するように”
“健全な発達を図る”
“健全な民主主義の発達に資するように”

などの文言からすると、積極目的のように見えます。
 ところが、

不偏不党、真実及び自律を保障
放送による表現の自由を確保

などの文言は、放送が、偏向、虚偽、他律になることから表現の自由が侵害されるという弊害を防ぐという消極目的に見えます。
 もし、そうだとすると、放送法は、積極目的+消極目的の両方を有するということになります。
 しかし、これだと、

積極目的⇒合憲(の方向)
消極目的⇒違憲(の方向)

という最高裁の考え方が当てはまらない…。
 どうなるのでしょうか?

実は…

 実は、最高裁は、財産権を巡る争いについて立法目的による審査基準の使い分け(規制目的二分論)をしていないように見えるのです。
 通常、規制目的二分論の立場からは、積極目的と認定されればよほどのことがない限り違憲とはなりませんが、積極目的と認定したうえで、違憲と判断した最高裁判例があるのです(森林法違憲判決-最大判昭和62年4月22日)。
 立法目的は関係ない…ということになるのでしょう。
 そうすると、結論を予測するのは難しくなります。

規制態様も考慮

 もっとも、規制態様を考慮して、

緩やかな規制であると最高裁が判断すれば、合憲
厳しい規制であると最高裁が判断すれば、違憲

ということになりそうです。
 衛星放送を含まない地上契約であれば、月額1,260円(沖縄は1,105円)になりますが、その金額を高いとみるかどうか。
 それにより、月額1,260円の支払いが財産権を侵害し違憲となるかどうかが分かれるように思われます。

待つしか…

 いずれにしろ、最高裁の判断を待つしかないですね。

---終---

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