「隗より始めよ」-元東京高検検事長の賭博を巡って-

2020年6月7日 0 投稿者: 行政書士 真栄里 法務事務所

事実関係

第201回国会 参議院 法務委員会 第8号 令和2年5月26日の国会会議録 参照

・緊急事態宣言下で勤務時間外に金銭をかけて麻雀を行った。
・天ピンレート(千点=百円)で、一万円から二万円程度の現金のやり取りがあった。
・約三年前から月一、二回程度金銭を賭けた麻雀を行っていた。

というのが事実関係です。
この事実に対して、検事総長は、「訓告」を行いました(第201回国会 参議院 法務委員会 第8号 令和2年5月26日の国会会議録 参照)。

黒川氏の処分については、法務省としては、今月二十一日、法務省が行った調査結果を踏まえ、監督上の措置として最も重い訓告が相当であると考えました。そこで、同日、検事長に対する監督権者である検事総長に対し、調査結果とともに、法務省としては訓告が相当である旨伝えたところ、検事総長においても、法務省が行った調査の結果を踏まえ、訓告が相当であると判断したものでございます。

とのことです。

刑法上の賭博罪

刑法上は、単純賭博罪(刑法185条)、常習賭博罪(186条1項)があります。
今回の元東京高検検事長の行為が賭博に該当することに問題はありません。「賭博」というのは、偶然に依存する勝負によって財物や財産上の利益の得喪を争うことをいい(松原芳博「刑法各論」(日本評論社、2016年)510頁)、麻雀で金銭を賭けることは「賭博」に該当するからです。
しかも、今回の行為は、約3年前から月一、二回金銭を賭けた麻雀をしていたのですから、賭博行為を反復・累行する習癖がありますので常習賭博罪に該当します。

逮捕・起訴は?

刑法上の常習賭博罪に該当する行為ですから、警察は逮捕することができ(刑事訴訟法199条)、検察官は起訴することもできます(刑事訴訟法247条)。
ですが、今回の行為で、警察と検察は何ら動きがありませんでした。
この程度の賭博行為は逮捕に値せず、起訴にも値しないという判断でしょう…。

懲戒処分、監督上の措置を巡って

懲戒処分としては、重い順に「免職」、「停職」、「減給」、「戒告」
監督上の措置としては、重い順に「訓告」、「厳重注意」、「注意」
があります。
今回の行為は、懲戒処分ではなく、監督上の措置としては一番重い「訓告」となりました。
法務省側は先例を参考にしつつ、黒川氏が事実を認め、深く反省していること等の理由から懲戒処分ではなく、監督上の措置として最も重い「訓告」処分をしたと説明しております(第201回国会 参議院 法務委員会 第8号 令和2年5月26日の国会会議録 参照)。
法務省の先例として、

A 複数回、合計百数十万円を賭けた野球賭博で「減給」処分
B 三回、合計十数万円を賭けた野球賭博で「戒告」処分
C 職場仲間内で二回、千点当たり五十円のレートでの麻雀賭博で「厳重注意」、「注意」、不問

があったようです(第201回国会 参議院 法務委員会 第8号 令和2年5月26日の国会会議録 参照)。
法務省としては、一回での賭け金がAやBには及んでいないので懲戒処分ではなく、監督上の措置にし、Cよりはレートが高く、回数も多かったので、監督上の措置として最も重い「訓告」処分が適切だろうと判断したのでしょう。

適切な処分だったのでしょうか?

先例では、どういった地位の公務員が処分を受けたのかわかりません。
挙げれられた処分例だけではやはりなぜ「訓告」処分になったのかはブラックボックスと言わざるを得ないと思います。
検察官は、行政官ではありますが、起訴独占主義(刑事訴訟法247条)の下で起訴権限を独占し、かつ起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)の下で起訴・不起訴に関して裁量権を有するという点で、準司法官であることからすると、起訴・不起訴の判断の公平性が強く求められます。加えて、その検察官の中でもナンバー2という東京高検検事長という地位は、検察組織自体を体現される地位とも言えますので、その地位にある方の行為については潔癖性・清廉性が求められますし、それだけではなく潔癖性・清廉性があるとみられる外観も強く求められます。自らが襟を正さなければなりません(「李下に冠を正さず」です)。国民に賭博行為をしてはいけない、という前に「隗より始めよ」です。自浄作用が機能しない状態では国民に示しがつかないのではないでしょうか。

---終---

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