エステ

あるエステサロンでの内部告発者いじめ?≪公益通報者保護法とブラック企業≫

2014年8月30日 0 投稿者: 行政書士 真栄里 法務事務所

約3200字(読了≠5分)

事件のあらまし

  1. エステサロンの女性従業員が(労組を結成して)給与からの制服代の天引きや未払い残業代の支払いを求めて会社と団体交渉を重ねた。
  2. しかし、解決せず。
  3. そこで、労働監督基準署に違法状況を報告した。
  4. 労働監督基準署がそのエステサロンに違法な給与減額分の支払いなどを命ずる是正勧告を実施。
  5. 労働組合がその経緯を公表しようとする。
  6. 会社社長が全従業員を集めた食事会にて、労基署へ報告した女性を名指しして「(労基法通りにやれば)潰れるよ、うち。潰してもいいの」などと述べる。
  7. その女性は職場へ行けない日々が続く。
  8. 長時間の詰問など精神的圧迫を受けたとして、厚生労働省に公益通報者保護の申告をした。

公益通報者保護法とは・・・?


公益通報者保護法は、平成16年に制定された法律です。
その目的は、公益通報者保護法第1条に規定されています。

第一条  この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

  1. この法律にいう「公益通報」とは、通報対象事実を行政機関などに通報する(知らせる)ことです。
  2. 労働基準法に反する事実(残業代未払いなど)は、「通報対象事実」に該当します(公益通報者保護法2条3項)。
  3. 労働基準法に反する事実(残業代未払いなど)を行政機関に通報した労働者は「公益通報者」にあたる(公益通報者保護法2条2項)ので、上記女性従業員は「公益通報者」に該当します。

上記女性労働者は社長などから長時間の詰問などの精神的圧迫を受けたということですから、「不利益な取扱い」(公益通報者保護法5条1項)を受けた可能性があります。

法的には

公益通報者保護法の目的は、

  • 「公益通報者の保護」と
  • 「国民生活の安定」「社会経済の健全な発展」

にあります。
なぜ、公益通報者を保護するのか?
それは、そうすることが「国民生活の安定」「社会経済の健全な発展」に資するからです。
今回の事件では、残業代が未払いでした。残業代未払いのままだと労働者の生活は安定しませんので、「国民生活の安定」が害されます。
また、残業代未払いのままだと労働者の経済・生活にしわ寄せが来る経済構造となります。その構造が社会経済の健全な発展につながることはありません。
ということは、今回の事件は、女性労働者の主張が正しいとすると、法的には会社側が断罪されるべきということになります。

しかし、会社を断罪するだけで解決するのでしょうか?
その理由を探るために、何故、残業代を支払わない会社があるのかを検討してみたいと思います。

何故、残業代を支払わないのか?ブラック企業の発生

残業代の支払いは使用者の義務であり、残業代の請求は労働者の権利です(労働基準法37条1項)。
使用者は、労働者を残業されば残業代を支払わなければならないことは知っています。
しかし、現実には支払わない会社がある。
その一因は、会社の販売商品の価格が適正ではないことにあります。
価格は、
その会社が商品を販売するのに必要なコスト

  • 人件費、
  • 原材料費、
  • 製造費、
  • 広告費など

  • 会社の利潤や
  • 設備投資費など

を加えた額から決定されます。
会社が販売する商品が市場でその会社の独占商品でしたら上の額で商品の販売額が決定されるはずです。
しかし、実際は競合会社がしのぎを削って争っているわけです。
他社を出し抜くために各会社はどうするか?
他社よりも価格を下げる、という販売戦略をとることがよく行われています。
価格を下げるわけですから、上の費用のどれかを圧縮せざるを得ません。
上の6つの費用のうち経営者が一番削りたいと考えるのはなんといっても″人件費”です。
これは残業代不払い企業が後を絶たないという事実自体が物語っています。
ちなみに、
平成22年度の残業代不払い是正指導の結果支払われた賃金は123億円で、
平成23年度の残業代不払い是正指導の結果支払われた賃金は145億円です。
増えてます。不景気に連動してサービス残業が増える傾向にあるようです。
会社は人件費を削ってコストを下げ商品の販売価格を下げて価格競争に勝とうとします。
その結果、サービス残業を労働者に強いるという流れにつながります。
しかし、他社も同様に人件費を削ってコストを下げ商品の販売価格を下げることで価格競争に勝とうとします。
そうすると、どこまで人件費を削ることができるか?という我慢比べになっていきます。

結局、会社が何故残業代を支払わないのか?
という原因は、会社が不当な価格競争に巻き込まれているからではないか、というのが(大雑把ですが)私の分析です。
もしそうであれば、改善策は次のようになるのではないか?と考えています。

ブラック企業改善策

その1(総括原価方式)

必要なコストを価格に確実に織り込む策が考えられます。
たとえば、電力会社の電気料金の決定に見られるような総括原価方式による料金算定方法です。
総括原価方式とは、
供給原価に基づき料金が決められる方式のことです。
各会社が総括原価方式で販売価格を決定すれば人件費を削ることなく必要な人件費を販売価格に転嫁することができます。

ただ、問題は他の会社も総括原価方式を採用するのかどうかにあります。
全ての会社が総括原価方式を採用しないのなら総括原価方式を採用した会社だけが一人負けする可能性が高くなります。
もっともすべての会社が総括原価方式を採用したと仮定したとすると、今度は消費者がこれまでよりも高い商品を買うことを強いられます。

その2(サービス残業徹底取締)

サービス残業を強いている会社を徹底的に取り締まり、指導・勧告・命令などを通して残業代の支払いをきちっとさせる策があります。
これは、現在国が実施している策でもあります。
この策が上手くいけば指導・勧告・命令などを受けた会社は人件費を商品価格に転嫁させるのでサービス残業は減るはずです。
このサービス残業徹底取締策の一環として「公益通報者保護法」があります。
内部者からの告発がなければサービス残業の有無・程度という内部情報を外部者が知ることは困難ですから、内部告発者の存在はサービス残業を徹底的に取締まるために不可欠です。
しかし、内部告発者は会社から見れば裏切者的な存在です。裏切者を会社が許すはずがありません。
ですので、その内部告発者を保護することは内部情報を収集するためには不可欠です。
そのために、平成16年に「公益通報者保護法」が制定されたのです。
内部情報を漏らされた会社にとっては、その内部告発者とその内部告発者を保護する「公益通報者保護法」はとんでもないものだ、という意識があるでしょう。

しかし、サービス残業を強いているすべての会社に内部告発者がいてその者が保護されればサービス残業を強いているすべての会社は人件費を価格に転嫁することができ、不当な価格競争から逃れることができます。最終的には会社の利益にもなるのではないでしょうか?

ただ、この策が実効性をもてば商品の価格が高くなり、消費者はこれまでよりも高い商品を買うことを強いられます。

いずれにしろ・・・

この2つの策いずれにも共通するのですが、
結局、消費者は今までよりも高い商品を買わざるを得ないことになります。
これに耐えられるか否か?耐える気持ちがあるか否か?がサービス残業をなくせるか否かに関わってくると私は思います。
最終的には消費者の消費行動次第ではないでしょうか?
値段の高低だけが消費行動の基準である社会ではサービス残業を減らすことは困難だと思います。

最後に

消費者も一緒になって会社を創っていくというような気持ちが必要なのかもしれません。