『イクメンは出世しない』説をめぐって
2015年2月8日目次
イクメンは出世しない?
『島耕作』作者の弘兼憲史氏が、
家庭的で幸せなパパというのは会社ではそんなに出世しない(NEWSポストセブン)
と主張したことを巡って賛否両論の意見が飛び交っています。
「でもこれが現実だよなぁ」
「育児に時間を割けばその他の時間が削られるんだからトレードオフってのは事実だよな。その他時間がほぼ仕事の人は成果に直結するし」(web R25「イクメンは出世しない」説で激論)
と、弘兼氏に同意する意見もあるものの、
「出世を至上命題とするオトコはもう要りません。家事育児をシェアできる夫が良いオットです」(原文ママ)
「男だけが働く前時代に住んでる人の発言だな、こりゃ」
「・・・世代の違いなんでしょうね」(web R25「イクメンは出世しない」説で激論)
と、弘兼氏を批判する意見が圧倒的なようです。
そもそも弘兼氏の真意は?
弘兼氏は、
イクメンではないけれど仕事に打ち込んでいる父親への、ある種の批判的な意見(NEWSポストセブン)
を問題視しています。
そして、
本来、どちらが正しい、こうあるべきだという話ではないはずです。(NEWSポストセブン)
とも主張されています。
この2つからすると、弘兼氏はイクメンが間違っているとか、目指すべきではない、とか言っているわけではないことに注意する必要があります。
仕事ができて出世して、家庭でもイクメンで運動会にも参加して子供に好かれる。それはもちろん理想ですが、現実には難しい。(NEWSポストセブン)
として、現実のことを主張しているのです。
イクメンが出世しないというのも、
家庭的で幸せなパパというのは会社ではそんなに出世しない、という構図があります。(NEWSポストセブン)
として、現実の会社がイクメンが出世しにくい仕組みになっているという事実を言っているに過ぎません。
イクメンでありながら出世もするというのが理想だが、現実はなかなかそうなってはいない、ということです。
イクメンを推し進めようとするあまり、イクメンではないが仕事に打ち込んでいる父親を貶めるような論調が許せない、ということなのだと思います。
この稿で検討すること
この稿では、
- 何故、イクメンが出世しにくい構図があるのか?
- この構図を変えるべきなのか?
- 変えるべきだとして、どうすれば変えられるのか?
について検討したいと思います。
何故、イクメンが出世しにくい構図があるのか?
分析
会社は、営利を目的としています。つまり、会社は儲けることを最大の目的としています。
従業員が仕事をすることで会社の儲けがでます。従業員の仕事量が多ければ多いほど、会社の儲けは多くなります。
たくさん儲けたい会社としては、たくさん仕事をする人が欲しいはずです。
たくさん仕事をして会社に多くの儲けをもたらしてくれる従業員を会社は出世させることになるでしょう。
つまり、出世の判断基準は、「仕事量(時間)」ということになります。
イクメンは、家庭も大事にしますから、仕事1本の人に比べるとどうしても「仕事量(時間)」が減ってしまいます。
「仕事量(時間)」と育児量とは、
仕事↑⇔育児↓
仕事↓⇔育児↑
というトレード・オフの関係が成り立ちます。
では、何故、会社は「仕事量(時間)」で判断するのでしょうか?
出世の判断基準が「仕事量(時間)」だということは、会社への貢献度を「仕事量(時間)」で評価している、ということです。
単純ですが、一目瞭然の明確な指標です。
しかも、「仕事量(時間)」が増えれば儲けが増えることもある程度の因果関係がありますから、「仕事量(時間)」で会社への貢献度を評価することも一応公正といえます。
それだけではありません。
ここで、1つの思考実験をしてみたいと思います。
あなたが社長だとして、あなたの後継者候補が2人(AとB)いるとします。ここでは、ABいずれも1ヶ月の顧客獲得数(つまり成果)は全く同じだと仮定しておきます。
A:定時出退社
B:早期出社、残業もする
あなたなら、AとBのどちらを、自分の後継者に指名しますか?
Aを指名したあなたは、能力主義者といえます。なぜなら、Aの方がBよりも短時間で同じ成果を出しているという点でAの方が能力が高く、そのAをBよりも高く評価しているからです。
Bを指名したあなたは、会社への忠誠心を重視しているといえます。なぜなら、あなたは、有限な自分の貴重な時間の多くを会社に使っているBをAよりも高く評価しているからです。
AとBのどちらを自分の後継者に指名する方が多いのでしょうか?
統計はないでしょうが、Bを指名する方が多いように思います。
社長であれば、まず何よりも会社が存続して継続的に儲けていくことを気にすると思います。会社の存続は社長にとって重要事項です。そして、会社の存続は、最終的には、その会社への社長の忠誠心で決まると思います。なぜなら、会社への忠誠心があれば、会社存続の危機に際して何としてでも会社を存続させようと知恵を絞りますが、会社への忠誠心が少ないと、合理的判断だけで会社を見捨てがちになるだろうからです。これだけ、科学技術が発達した現代においても、最後の最後は人の根性にかかってきます。その根性の有無が最終的な人事評価の基準になっているように思います。
そして、根性の有無は、「成果」ではなく、どれだけの時間をその会社に使ったのか?という「仕事量(時間)」にかかってくるでしょう。嫌いな人とは自分の時間を1分でも使いたくないが、好きな人とは1分では足りない、というのと同じです。つまり、限りある自分の時間をどう使うかでその人の選好が分かります。だから、会社に多くの時間を使うのであれば、その会社に忠誠心を持っている、そして、忠誠心があれば根性も伴いますから出世させるにふさわしい、と評価されるのです。
小まとめ
- 「仕事量(時間)」を評価基準としていることがイクメンの出世を妨げる構図の一因であること。
- 「仕事量(時間)」を評価基準とするのは、会社への忠誠心をチェックするためであること。
この構図を変えるべきか?
では、イクメンが出世しにくいこの構図を変えるべきでしょうか?
分析
- 生き方の多様性を確保する必要があると考えるなら、この構図を変えるべきだという結論になるでしょう。なぜなら、もし、この構図のままだと、出世したいのならイクメンになっている場合ではないことになりますし、イクメンになりたいのなら出世をあきらめる、ということになり、イクメンから出世というコースを採ることができなくなり、多用な生き方を否定されるからです。
- 他方、一生独身で仕事に打ち込む人からしますと、イクメンでありながら出世までするというのは耐え難いことだと思います。結婚や家庭を犠牲にした報酬として出世するのは当然ではないか?という思いを持つことも理解することができます。こう考えると、上の構図を変える必要はないということになりそうです。
ただ、2.の場合に注意すべきは、イクメンで出世する人も出世に値する犠牲を払っていることが多い、ということです。
イクメンで出世する場合、「仕事量(時間)」を確保しながら仕事以外の時間の多くを家族のために使うわけです。そうすると、自分のために使う時間は、仕事1本の人に比べて少なくなっているはずです。
仕事1本であれば、1日の時間は、仕事用と自分用で2つに割り振られます。
しかし、イクメンの場合、1日の時間は、仕事用と家庭用と自分用の3つに割り振られます。
イクメンで出世する場合は、自分のための時間を犠牲にしていることになります。
2.の場合でも、イクメンが自分の時間を犠牲にしていることをどう評価するかで、上の構図を変えるべきかの結論は変わります。
小まとめ
ここでは、イクメンの出世を妨げる構図を変えるべきだという結論を採っておきます。
どうすれば変えられるのか?
分析
会社はたくさん仕事をする人を望みます。それは、「仕事量(時間)」が会社の儲け増加につながるからです。
合理的に仕事をすれば少ない「仕事量(時間)」でも多くの儲けをもたらす、ということは可能ですが、人間同士のふれあいの中で、合理性だけを追求することは困難です。営業を考えると分かりやすいですが、合理性を追求して仕事の話ばかりすると上手く行きません。世間話のような無駄に見える時間を費やすことが必要です。その無駄に見える時間を共有することで初めて人は相手を信頼することができるからです。
ということは、「仕事量(時間)」で評価すると、イクメンは出世しにくいという構図を変えることはできません。人事評価を変える必要が出てきます。
この構図を変えるためには、会社への忠誠心を時間で図るという人事評価の仕組みを変えねばなりません。
1つには、「成果」という指標に着目した人事評価の仕組みが考えられます(成果主義)。時間ではなく「成果」という結果に着目するわけです。成果主義を採れば時間は関係ありません。
ただ、これにも困難な問題があります。1つの「成果」には通常多くの従業員が関与しています。プロジェクトチームとしての「成果」は当然そうですが、そうでなくてもこのことはあてはまります。
ある営業担当者Cが顧客を1人獲得して1,000万円分のパソコンを売ったとします。Cが1,000万円分のパソコンを売ったのですが、その「成果」は全てCの「成果」ではないはずです。パソコンを売るためには、まずパソコンを仕入れる必要があります。仕入れには仕入れ担当者がいて少しでも安く購入しようと日々努力しています。仕入れたパソコンを保管する在庫管理担当者もいるはずです。さらに納入担当者もいるでしょう。Cがパソコンを売ることができたのは、これら他の従業員の仕事があったからです。そうすると、売上げ1,000万円はCだけの「成果」とはいえません。
問題はCやその他の従業員の、その売上げ(成果)への貢献をどう評価するのか?という点です。なかなか困難な問題といえます。成果主義が上手く機能するためには、貢献の評価基準の明確性をどう確保するのかにかかってきます。「時間」という明確な指標に匹敵するような明確性を確保することができるかが大切になってきます。
加えて、その指標の公正さも大切です。
明確性と公正さを確保するためには、会社の全体を見渡した上での「成果」評価基準の決定が必要となります。
小まとめ
明確性と公正さを備えた「成果」評価基準の確立ができればイクメンが出世しにくい構図を変えることができると思います。
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