取り調べの可視化って?【対話で深く理解】
2015年4月30日約4,000字(読了≠7分)
- Taka
- あっ、RIEちゃん、久しぶり。
クッキー食べてるんだ。美味しそうだね。 - RIE
- Taka先輩、久しぶりって、3日前に会ったじゃないですか?
このクッキーはTaka先輩にはあげませんよ?RIEのです。
美味しいって評判のケーキ屋さんに15分並んでやっと手に入れたチョコチップクッキーなんですから。 - Taka
- 分かってるって!
それはそうと、試験勉強頑張ってる? - RIE
- 真栄里先生に虐げられながら頑張ってます。
- Taka
- 可哀想に。
僕だったら優しく教えるのに・・・ - RIE
- ま、しょうがないですから。
ところで、先輩、最近、ネットに取り調べ可視化の話が載ってました。
なんでも、取り調べが1回でも可視化された事件の全体に占める割合が93.7%から85.2%に低下したとのことです(「全過程「可視化」17%=20倍の575事件-昨年度、警察取り調べ」)。これからどんどん低下していくんじゃないですかぁ。結局。
なんで捜査機関は、取り調べの可視化に反対しているんですか? - Taka
- それは、これまでの捜査が困難となるからだよ。
- RIE
- ”これまでの捜査”?
- Taka
- そう。
取り調べで「自白」を取ることに主眼を置く捜査のこと。 - RIE
- そんなに「自白」って重要なんですか?
- Taka
- 自白は「証拠の王様」という標語もあったりするんだ。
今は昔ほどではないだろうけどね。
「自白」があるのとないのとで裁判の結果が左右されることを言い表した標語なんだ。 - RIE
- ふ~ん。
まぁ、裁判官としても、
「俺はやってない、無実だ~」と一貫して叫んでいる人を有罪にするなんて、さらには死刑にするなんて心理的に抵抗ありますものね。 - Taka
- そうなんだろうね。
「自白」+「(客観的)証拠」がある場合と、
「(客観的)証拠」だけの場合、
裁判官としては「(客観的)証拠」だけの場合に被告人を有罪とすることに少し躊躇するのかもしれないね。 - RIE
- あと、捜査機関としては、「自白」させて被疑者に反省させることも意図しているかもしれませんよ。
よく刑事ドラマとかでもあるじゃないですか!お前がやったんだろ?
だったら正直にやったと白状するんだ。
そして刑務所でキチンと刑期を勤めてこい。
お前のお母さんだって息子が心から反省して更生するのを望んでいるぞ!みたいな。
- Taka
- あはは~、あるある。
RIEちゃんが言ったようなこともあるかもね。
それを社会も望んでいるような気もするし。 - RIE
- でも、「自白」を取る捜査はもう辞めるべきではないですかね?
- Taka
- どうして?
- RIE
- だって、「自白」を強要したりして無実の者を有罪にした例に事欠かないですから。
- Taka
- 「自白」を取る捜査に反対する人達はそういうね。
「自白」強要はもっとも恐ろしい国家犯罪と言っても良いだろうね。
だって、国家が無実の人をむりやり刑務所に入れる、死刑だと無実の人を殺しちゃうわけだから。 - RIE
- でしょ?
だから「自白」を取る捜査なんてもう辞めるべきなんですよ! - Taka
- でも、捜査機関は消極的だよ。
- RIE
- う~ん、そもそも「自白」を取らないと捜査ってできないものなんですかね?
- Taka
- 捜査機関はそう言うね。
- RIE
- 本当にそんなことってあるんですか?
客観的証拠だけで有罪とした裁判例だってあるでしょ? - Taka
- もちろんあるよ。
- RIE
- だったら「自白」に頼らなくても良いじゃないですか!
客観的証拠の方が「自白」といった内心に関わる証拠よりも確実ですよ! - Taka
- そうかもしれないけど、「自白」に基づいて客観的証拠を発見するということもあるんだよ。「自白」により、犯人しか知り得ない秘密を暴露させて客観的証拠を集める、という捜査を可能とするのが、「自白」を採取する捜査なんだ。
- RIE
- え~、これだけ科学技術が発達した現代でも秘密を暴露させないと客観的証拠を発見できないんですか?
- Taka
- あるみたいだよ。
「自白」させるためには、捜査官が被疑者を取り調べる必要がある、そしてその際、人間同士の生臭い話をすることもあるだろう。
しかし、取り調べ状況すべてを録画しているとそういう話ができなくなるだろうね。
ここでの話だから言える話というものが世の中にはあるわけだから。 - RIE
- (サクッサクッ、モグモグ)「ここだけの話」というのは確かにありますね。
捜査機関が取り調べの全面可視化に反対するにも理由があるんですね。 - Taka
- それはそうだよ。
- RIE
- でもなんかおかしい気がするんですよ!
- Taka
- ん?何か僕の髪型変?
- RIE
- はい?
- Taka
- ・・・
いや、何でもないです・・・ - RIE
- だって、客観的証拠がないのにどうしてその人を容疑者として逮捕するんですか?
それって、先に、こいつが犯人に違いない!という捜査官の「勘」があるんですよね? - Taka
- そうだろうね。
よく「長年の勘で分かるんだ」みたいなこと聞くよね。 - RIE
- 「勘」で犯人扱いされたら逮捕された人はたまったものじゃないですよ!
- Taka
- そりゃぁね。
- RIE
- しかも、そういった捜査官は自分の「勘」は絶対に正しい!っていう絶対の自信を持っていたりしますからね。
そうすると、自分の「勘」の正しさを裏付ける証拠だけに目を向けて、被疑者が無実であることを示す証拠をわざと隠すとか、見なかったことにするとかいう態度をとるんですよ。
この態度が「自白」強要を招き、無実の人の一生を狂わせる根本原因だとRIEは思います! - Taka
- なんか、今日のRIEちゃん、いつにも増してヒートアップしてるね。
そんな中、あえて反論してみたいと思うんだけど、決定的な客観的証拠があればその証拠から被疑者が判明するだろうけど、決定的な客観的証拠がない場合、捜査官の「勘」的な要素は被疑者を特定する上で重要な役割を果たすことがあるんじゃないかな? - RIE
- だから、そうすると、RIEがさっき言ったみたいな事態(捜査官の「勘」の正しさを裏付ける証拠だけに目を向け、被疑者が無実であることを示す証拠をわざと隠すとか)を招くと思い・・・
- Taka
- まぁまぁ、ちょっと待って!
まだ全部言ってないから。
「勘」というと主観的なものだからRIEちゃんが言うような懸念は当然出てくるし、これまでの誤判もそういう主観的な「勘」に頼った捜査に一因があると思う。
しかし、今は「プロファイリング」という科学的な捜査手法もかなり発達してきている。
そういった科学的捜査手法を用いれば、特定した被疑者を取り調べて「自白」を採取してもいいってことにならないかなぁ? - RIE
- (サクッサクッ、モグモグ)
え~!「プロファイリング」っていう科学的捜査ができるんだったら「自白」なんてものに頼らなくても客観的証拠を発見することが出来そうなんですけど・・・ - Taka
- いくら科学的捜査が発達したとはいえ、万能ではないからねえぇ。
手っ取り早いのは、あらゆる空間に監視カメラを設置することなんだけど・・・ - RIE
- それは無理!
- Taka
- だよね。
犯行現場を直接再現できる科学的捜査があれば「自白」なんて不要かもしれないけど・・・
現実的には不可能だ。 - RIE
- そもそも、客観的証拠だけからある人を被疑者と特定することができないなら、その人を逮捕しない、という捜査にすべきなんじゃないですか?
- Taka
- なかなか過激なことを言うねぇ、RIEちゃん。
もしそうしちゃうと、犯罪の検挙率はさらに下がっちゃうと思うけど? - RIE
- それはそうでしょうけど・・・
でも、無実の人の一生を狂わせることの恐ろしさを考えたらしょうがないというべきかも・・・ - Taka
- この問題は、結局は、「犯罪検挙による社会秩序維持VS市民の自由尊重」の調整の問題ということになるだろうね。
どちらの側からスタートするのか?どちらの側に軸足を置くのか?によって、取り調べの可視化に対する態度(認めるのか否か、認めるとした場合でもその要件をどう設定するか)は変わってくると思うよ。 - RIE
- そういうことですかね。
いや~、今日もためになりました、Taka先輩!
ありがとうございます。
さて、残りのチョコチップクッキーも食べちゃおっと。
ん?あれ~? - Taka
- どうしたの?
- RIE
- RIEのチョコチップクッキーがない!!
もしかしてTaka先輩食べたでしょ? - Taka
- え?
いや、食べてない・・・よ。 - RIE
- だっておかしいじゃないですか!
ここにはTaka先輩とRIEしかいないんですよ?
RIEは食べてないのにチョコチップクッキーはなくなっている。
ということは、Taka先輩が食べた以外にないじゃないですか!!
白状してください。 - Taka
- いや、だから食べてないんだって!
- RIE
- い~え、怪しいです、さっき返事するときに少し間がありました。
RIEの「勘」は当たるんです。
さぁ、さっさと白状してください。 - Taka
- (え~、あんだけ「勘」はダメだと言っていて自分はその「勘」を持ち出す~?)
- RIE
- さぁ、白状するなら今のうちですよ!
- Taka
- 僕が話している間、自分でチョコチップクッキー食べてたよ。覚えてないの?
- RIE
- そんなはずはありません。自分で食べたんだったら覚えているはずです。
- Taka
- あ~、分かりました。
じゃあ、今度そのチョコチップクッキー買ってきます。 - RIE
- お願いしますよ!
- Taka
- あと、RIEちゃんは絶対に警察官になっちゃダメだよ。
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