「多様性尊重」併記条例が否決…

2020年6月30日 1 投稿者: 行政書士 真栄里 法務事務所
RIE
男女平等多様性条例案、宜野湾市議会が否決したそうです。
真栄里
だな。
RIE
何考えているんですか!
意味わかりません。

真栄里
俺も意味は分からん。
反対討論で、ある議員は

条例の上位にある男女共同参画社会基本法に「多様性を尊重する文言はない」

とし、

「男女共同参画と多様性尊重は条例に併記できるものではない」

と強調したと新聞にあるな。
反論する場合の議論の筋としては次のようになる。

1 男女共同参画社会基本法に多様性を尊重する文言はないことが多様性を尊重する条例制定を否定する根拠となるのか?つまり憲法学でいうところの「横出し」条例の可否
2 多様性尊重と男女共同参画が同じ条例に併記できない性質のものなのか?
3「横出し」条例が可能で、併記も可能だとした場合、それでも多様性尊重を定める条例を否定する根拠があるのか?

RIE
そこまで丁寧に相手する必要あります?
だって否決する方が明らかにおかしいでしょ!
真栄里
討論である以上、相手が出した理由にちゃんと反論しないと討論にならないじゃないか。
こどものケンカじゃないんだから。
RIE
どこまで真面目なんですか…
なんか結論を聞いただけでRIEはイライラします。
真栄里
冷静になれ。


で、まず1だが、「横出し」条例の可否は憲法でも有名な論点だ。
RIE
なんか判例がありましたね。
真栄里
徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)だな。
結論としては、条例が国の法令に違反するかどうかは、

両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容および効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって判断すべき

であるとこの判例は判示している。

RIE
結論としてはどうなんです?今回の条例案は「横出し」条例として許されますか?
真栄里
結論としては許されるな。男女共同参画社会基本法は前文で

日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等がうたわれ

と表現しており、その一環として男女平等の実現に向けた取組へのなお一層の努力が必要とされている、としている。男女平等の実現に向けた取組というのは、だから「個人の尊重」と「法の下の平等」を実現するための一例であり、加えてこの条例案を認めても男女共同参画社会基本法の内容および効果と矛盾抵触することもない。

RIE
なるほど。
ということは、今回の条例案は「横出し」条例として許されるということですね。
真栄里
そうなるな。男女共同参画社会基本法の趣旨、目的、内容および効果に今回の条例はなんら反しないからな。
RIE
じゃ、次は「2 多様性尊重と男女共同参画が併記できない性質のものであるのか?」ですね。
真栄里
これについても、併記できない性質との意見は成り立たない。
男女共同参画社会基本法の前文には、

男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現は…

との規定があるが、ここで、「男女」というのを「多様性を有する個人」と、「性別」を「違い(多様性)」と言い換えても何の問題もなく成立するからな。

RIE
じゃ、2もクリアですね。
ということは、問題は「3「横出し」条例が可能で、併記も可能だとした場合、それでも多様性尊重を定める条例を否定する根拠があるのか?」ということですね。
真栄里
ここは人権の問題であるが、条例の制定という政治の場面なので、正義論の話をした方がいいだろうな。
RIE
正義論?
真栄里
ジョン・ロールズの「正義論」だ。
要約すると次のようになる。
まず、「原初状態」(original position)というものを想定する。この原初状態とは、

誰も社会における自分の境遇、階級上の地位や社会的身分について知らないばかりでなく、もって生まれた資産や能力、知性、体力その他の分配・分布においてどれほどの運・不運をこうむっているかについても知っていない…契約当事者たち(parties)は各人の善の構想やおのおのに特有の心理的な性向も知らない

という状態だ(著者:ジョン・ロールズ、翻訳者:川本隆史/福間聡/神島裕子「正義論 改訂版」(紀伊国屋書店、2010年)18頁)。
この原初状態においてどういう社会を構築するかを考えれば正義が実現される、というのが正義論の骨格だ。

RIE
初めて聞きました。
でも条例案を否定した議員は自分が多数派だということを知っているからこそ条例案を否定したわけで、「原初状態」というものを認識していないと思いますよ。
真栄里
だからこそ、ロールズは、「無知のヴェール(veil of ignorance)」を想定するんだ。
RIE
「無知のヴェール」…
真栄里
人々は、自分がどういう境遇にあるのか、どういう社会的身分をもって生まれてくるのか、金持ちなのか・貧乏なのか、賢いのか・賢くないのか、健康なのか・病弱なのか、強運の持ち主なのか等を知らない、という状態、つまり「無知のヴェール」で覆われた状態のままで社会制度を構築してみようと考えるわけだ。
RIE
なるほど。
たとえば、自分が同姓を好む性向を持って生まれたとしたらどういう社会制度を望むか?という感じですね。
真栄里
そうそう、そういうこと。
「無知のヴェール」に覆われた状態で社会制度を構築するとなると、みな、自分が社会的に不利な地位に立ったとしても生きていける社会制度を望むだろ?
そうであれば、より差別のない公平な社会制度を実現することができる。
RIE
条例案を否決した議員さんに真剣に考えてもらいたいですね。
真栄里
だな。
RIE
憲法論から正義論まで知識をくださりありがとうございます。
そろそろおひるごはんの時間ですので、知識だけじゃなく、今度は寿司をRIEにください(^▽^)/

---次話へ続く---

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