正面から答弁しているのでしょうか…(安倍総理の答弁を巡って)1

2020年8月9日 0 投稿者: 行政書士 真栄里 法務事務所

方針

これから政治家の答弁を取り上げていきますが、答弁の内容の是非ではなく、質問に対して正面から答えているか否かという観点から検討したいと思います。

質問と答弁

令和2年6月18日の安倍内閣総理大臣記者会見でのやりとりから。
【フジテレビ鹿嶋記者からの質問】

1 …冒頭、言及がありました河井夫妻が逮捕されたことについて、責任を痛感していると述べられましたが、総理、総裁として具体的にどういった責任を痛感されているのか…
2 自民党から振り込まれた1億5,000万円の一部が買収資金に使われたことはないということでいいのか
3 東京五輪についてですが、IOC(国際オリンピック委員会)などが開催方式の簡素化を検討している中で、総理が述べてきた完全な形での実施ということに関して、考え方は変わりはないでしょうか。
4 併せて、総理は治療薬やワクチンの開発も重要だということをおっしゃっていますけれども、これは五輪開催の前提になるのでしょうか。
5 与野党の中に首相がこの秋に内閣改造をした上で衆議院の解散に踏み切るのではないかという観測が一部ありますけれども、現下のコロナ感染状況に照らして、総選挙の実施は可能と考えますでしょうか

【答弁】

1 …国民に対する説明責任も果たしていかなければならない…
2 …巷間(こうかん)言われているような使途に使うことができないことは当然であります…
3 …現在もその方針には変わりはございません
4 感染症の世界的な制圧に向けて、治療薬や、あるいはワクチンが果たす役割は大変大きいと理解しています。東京大会を円滑に実施するためにも、我が国、また、世界の英知を結集して、その開発に取り組んでいきたいと思っています。
5 今現在、新型コロナウイルス感染症対策に全力を尽くしている中にあって、頭の片隅にもありませんが、様々な課題に真正面から取り組んでいく中で、国民の信を問うべき時が来れば躊躇(ちゅうちょ)なく解散する、解散を断行する考えに変わりはありません。

検討

上記質問に対して正面から答弁しているのは1と3だけです。
以下で、2、4及び5について検討します。

<質問2>

-質問の意図-

党が振り込んだ金銭(の一部)が買収資金に「使われたことはないということで(安倍総理は考えていると捉えて)いいのか」ということです。

-答弁の分析-

この質問に対する答弁は、「使途に使うことができないことは当然であります」となっています。これは、公認会計士による厳格な基準での事後チェックがあったので巷間で言われているような使途に使うことはできない仕組みになっています、と制度の仕組みを説明しただけになっています。
公認会計士によるチェック制度の仕組みを前提に安倍総理としてもそう考えているのかどうかについて答弁をしないと記者の質問に正面から答えたことにはなりません。法律(制度)が「~~」となっていて不正ができない仕組みとなっているとしても、不正をする人々は後を絶たないわけですから、単に制度の仕組みを説明して不正ができない仕組みとなっていますと答弁をしても正面から答えたことにはならないわけです。正面から答える答弁が必要となります。

<質問4>

-質問の意図-

記者の質問は、「治療薬やワクチンの開発が五輪開催の前提となるのでしょうか?」ということです。
ここで、前提とは、前提となるものが必要条件だということです。「Aを実施する前提としてのB」というのは、前提としてのBがない限り、Aを実施することができないということです。つまり、記者の質問の意図は、治療薬やワクチンの開発がない限り五輪を開催することはできないのでしょうか?という点にあります。

-答弁の分析-

治療薬やワクチンが感染症の制圧に向けて果たす役割の大きさを述べ、治療薬やワクチンが東京大会を円滑に実施するためにも必須だからその開発に取り組んでいきたい、と答えています。
治療薬やワクチンの開発が東京大会を円滑に実施するためにも必須だ、というのは誰も否定しませし否定することができないことです。記者はそういうことを聞いているわけではありません。記者の質問の意図は、「治療薬やワクチンの開発がない限り五輪を開催することはできないのでしょうか?」ということですから上記答弁は、この質問に正面から答えていません。正面から答える答弁が必要となります。少なくとも、「五輪開催の前提となるかどうかは検討中です」とかの答弁が必要でしょう。

<質問5>

-質問の意図-

記者の質問の意図は、「現下のコロナ感染状況に照らすと総選挙の実施が(状況的に)可能と考えますか?」ということです。つまり、「衆議院を解散するという意図があったとしても、現下のコロナ感染状況下で衆議院を解散することが状況的に可能だと考えますか?」ということです。

-答弁の分析-

「国民の信を問うべき時が来れば躊躇(ちゅうちょ)なく解散する」という上記答弁は、「国民の信を問うべき時が来れば」躊躇することなく解散します、という総理の強い意志を強調する答弁となっていますが、ここでの問題は「国民の信を問うべき時」がどういう時なのか?ということです。記者が質問しているのもまさにその「時」がどういう「時」なのか?ということです。コロナ感染状況に関わらず総理の意志だけで衆議院を解散するということなのか(そうではないと思いますが)、そうでないならば、コロナ感染状況がどういう場合であれば衆議院の解散に踏み切るのか?衆議院解散の判断にコロナ感染状況はどの程度の重みを持つのか?衆議院解散の判断基準をどう考えるのか?が記者の質問の意図ですからその点に正面から答える必要があると思います。

まとめ

5つの質問に対して、正面から答弁したといえるのは2つ(⅖)で、3つ(⅗)は正面から答えていませんでした。

---次へ続く---

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