戦争暴言(丸山議員)
2019年5月25日目次
戦争暴言の発言内容の確認
元、日本維新の会の丸山穂高衆議院議員が「ビザなし交流」の訪問団に参加した5月11日の夜に、以下のような発言をしたということです。
「戦争で島を取り返すことには賛成ですか、反対ですか」
「戦争しないとどうしようもないじゃないですか」
NHK NEWS WEB
この発言は、国後島の古釜布でロシア人の家庭を訪問して食事をしながら交流を深める「ホームビジット」に参加した後、宿泊施設に戻ったあとに、訪問団の大塚小彌太団長に対して問いただした際の発言ということでした。
この発言が国会議員として許されるのかどうかがここでの問題です。
国会議員には、
・不逮捕特権(憲法50条)
・免責特権(憲法51条)
という特権が憲法上保障されています。
これらの特権が丸山議員の上記発言に保障されているのでしょうか?
不逮捕特権(憲法50条)
憲法は50条において、
両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
と規定しています。これが不逮捕特権と言われるものです。
不逮捕特権のポイントは、文字通り、逮捕されないという特権です。刑事事件として逮捕されない特権。
ですから、不逮捕特権は、論理的に、逮捕容疑がある場合に初めて発動する特権です。
丸山議員の上記発言を処罰する規定は現行法上ありません(表現をその内容を理由に処罰する規定はないと言ってもいいです)。
ということは、そもそも、丸山議員の上記発言に不逮捕特権が適用されることはありません。
免責特権(憲法51条)
次に、憲法は議員の特権として、51条において、
両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
と規定しています。
丸山議員の上記発言で特に問題となるのは、2点あります。
1 「ホームビジット」参加後に、宿泊施設に戻ったあとでの発言であることが、議員としての職務上の発言であったといえるのか。
2 職務上の発言だとして、その発言が、一般的に刑事又は民事責任を問われる内容であるといえるのか。
です。
1の点
おそらく、丸山議員の上記発言は、宿泊施設に戻ったあとの発言であるため、公的業務終了後の私的な立場での発言であった可能性が高いと思います。
もっとも、宿泊施設に戻ったあとでの発言とはいえ、団長が同行記者の取材を受けていた際の発言であることを考えると、議員としての職務上の発言であったとみることも不可能ではないかもしれません。
2の点
そうであれば、次は、2の問題です。
丸山議員の上記発言が一般的に刑事又は民事責任を問われる内容であるといえるのかどうか、です。
刑事責任が問えないことは不逮捕特権のところで検討しました。
では民事責任はどうでしょうか?可能性としては不法行為責任でしょうが、そもそも特定の被害者がいません。ですので、丸山議員の上記発言は一般的に民事責任も負わないだろうと思います。
そうすると、免責特権の保障もありません。
丸山議員の上記発言は、刑事責任、民事責任をそもそも負わない発言だからです。
丸山議員は、上記発言により法的責任を負うことはない、ということになります。
除名処分(憲法58条2項但書)
そうはいっても、国会議員は、政治責任を負います。国会議員の政治責任についての規定が憲法58条2項但書にあります。
除名処分です。
~。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
と規定されています。
この除名処分は、たとえ議員が法的に責任を負わなくても各議院が議員の国会議員としての資格を失わせることができるという意味で、国会議員の政治的責任について定めた規定となっています。
今回の丸山議員の上記発言に基づき、丸山議員が所属していた日本維新の会は、丸山議員を政党からの除名処分としましたが、この除名処分は、憲法58条2項但書に基づく除名処分とは異なることに注意が必要です。
憲法58条2項但書で除名された場合は、国会議員としての地位を失いますが、政党からの除名処分ですと、政党員の資格を失うだけで国会議員としては活動することができるのです。
各議院は、自律的な判断で除名処分を下すかどうかを決めることができますので、丸山議員に憲法58条2項但書に基づく除名処分をしなかった衆議院の判断を一方的に非難することはできないとは思います。
もっとも、各議院の自律的判断に基本的にはゆだねられるとはいえ、その自律的判断にも限界はあるはずです。
ここで、国会議員の憲法上の地位をよく見てみたいと思います。
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。(憲法43条1項)
とあります。ポイントは、国会議員は、「全国民を代表する」ということです。
そして、次は、前文1段を見たいと思います。
国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。
とあります。ここでのポイントは、国政が「国民の厳粛な信託による」という点です。国民が代表者(国会議員)に権力行使を信託し、国会議員は国民の信託に基づいて権力を行使し、その福利は国民が受ける、という仕組みになっています。
つまり、
国民=委託者かつ受益者
国会議員=受託者
なのです。
国会議員は、国民からの受託者として国民のために権力を行使することが憲法上予定されていることになります。
そうであれば、丸山議員の上記発言が国民からの信託に背く発言であるならば、国民から信託を受けた受託者である両議院議員で構成する両議院は、国民からの信託を裏切った所属議員を除名処分にすることが憲法上当然に求められるでしょう。
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そこで、次に、丸山議員の上記発言は、国民からの信託に背く発言であったのかどうかが問題となります。
憲法9条の解釈として、自衛戦争も不可能だと理解する平和主義からは当然に丸山議員の上記発言は国民からの信託に背くことになります。
また、「多様な価値観の公平な共存」を図るという立憲主義の考え(長谷部恭男先生)からは、自衛戦争は可能ということになりますが、その考えによれば、領土取戻しのための戦争が自衛戦争といえるのかどうかがさらに問題となります。
たとえば、刑法の事例ですが、窃盗犯から所有者が盗品を取り戻す行為が正当防衛にあたるのかどうかという論点があります。
判例学説でいろいろ考え方はありますが、正当防衛が成立する考え方もあります。その考え方を領土取戻しのための戦争にパラレルにあてはめると、領土取戻しのための戦争は自衛戦争に該当する可能性があるということになるでしょう。
しかし、窃盗犯から所有者が盗品を取り戻す行為が正当防衛にあたるのかどうかの論点では、そもそも取り戻す側に所有権があるというのが大前提です。取り戻す側に盗品の所有権があるからこそ、窃盗犯からの取り戻し行為に正当防衛が成立する可能性が出てくるのです。逆に言うと、取り戻す側に所有権がないのであれば、窃盗犯から盗品を奪う行為に正当防衛は成立しません。
ということは、北方領土に日本の領有権が現時点で及んでいるのかどうかが最終的に問題となります。
これを肯定するのであれば(ポツダム宣言を否定しない限りこれを肯定することは不可能だと思います)、領土取戻しのための戦争が自衛戦争に当たると考える可能性は残りますが、これを否定するのであれば領土取戻しのための戦争が自衛戦争に該当する余地はありません。そうであるのに、領土取戻しのための戦争を主張することは侵略戦争をすべきだと言っていることと同義になりますから、丸山議員の上記発言は国民の信託に背く発言だということになります。そうであれば、国民から信託を受けた受託者である両議院議員で構成する両議院は、国民からの信託を裏切った所属議員を除名処分にすることが憲法上当然に求められると思います。
ですが、おそらく衆議院は、丸山議員の除名処分を今後もしないだろうと思いますから、あとは、丸山議員が自発的に議員を辞職しない限り、次の選挙で国民(正確には選挙区の有権者)が投票で丸山議員にどういう判断をくだすのかによります。
最終的には委託者である主権者の国民の判断次第となります。民主主義の最後のよりどころは、なんといっても主権者である国民です。次の世代に恥じない意思決定をしていけるように私たち国民一人一人がしっかりしないといけないなと思います。
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