TRUSTの日本での効力と委任契約
2014年6月5日
約2450字(読了≒4分)
目次
「LIVING TRUST」の改訂
TRUSTの日本での有効性について 今、抱えている困難な法的問題が「LIVING TRUST」(以下、TRUSTと略します)の改訂についてです(帰国後、公証人・弁護士に要相談事項です)。
私は、弁護士ではないですから、法的助言をすることはできません。
ですので、以下は、私がロースクールで勉強した国際私法の知識を元にした私見にとどまります。
分析
このTRUSTは弁護士の下でアメリカで作成されていますから、当然アメリカでは有効です。
アメリカにいる間、効力を持つことは当然ですが、日本の国際私法(「法の適用に関する通則法」)に照らすと、日本でもそのTRUSTは効力を持つと思われます。
TRUSTは信託契約という「契約」です。
契約、つまり、「法律行為」の成立および効力は、「当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法」によるとあります(通則法7条)。
このTRUSTではカリフォルニアの州法が要求する宣誓などがなされていますので、おそらく当事者が選択した地の法はカリフォルニア州法だと考えられます。
しかし、明示の定めが見当たらないので、通則法7条ではなく、通則法8条も検討しておく必要があります。
この通則法8条によるとカリフォルニア州法が準拠法となります(通則法38条3項参照)。
通則法7条、8条のいずれにしろ、準拠法はカリフォルニア州法となります。
ただ、ここで問題なのが、アメリカのTRUSTにぴったりの法制度が日本にはないということなのです。
このTRUSTの内容に従った履行を日本ですることができるのか?悩みどころです。
TRUSTにおいては、信託者(Settlor)が自己の財産の所有権を信託財団(A foundation)に移転し、信託契約を締結します。
自分が法的無能力者となるまでは、信託者自身が受託者(Trustee)となって、自己のために財産を管理します。
しかし、自分(信託者)が法的無能力者となれば、あらかじめ指定した者(trust companyなど)が受託者として信託者のためにその財産を管理することになるという制度です。
TRUSTにおいては、国家は一切関与しません。
TRUST類似の日本の制度
日本では、このTRUSTに似た制度として、「任意後見制度」があります。
この制度は、任意後見契約を締結し、その旨の公正証書を作成し、法務局にその旨の登記をしておきます。そして、委託者に痴呆の症状がみられるなどの事態が生じれば、家庭裁判所に申し立てて、任意後見契約で選んだ受任者(任意後見人)が委託者の財産を管理することになります。
ただし、家庭裁判所が任意後見監督人を選任する必要があります。
「任意後見制度」と「TRUST」との相違点
「任意後見制度」は、TRUSTと次の共通点があります。
(1)信託者が法的無能力者となった時のことを考えた財産委託契約であること。
(2)受託者を契約で自由に定められること。
(3)受託者が善管注意義務を負うこと。
(4)契約書の作成は公正証書によること(TRUSTでは、弁護人がNotary Public-公証人-としての立場でもTRUSTの内容に間違いがないことを宣言して書類を作っています)。
しかし、「任意後見制度」はTRUSTと次の点で異なります。
(1)「任意後見制度」では、登記が必要ですが、TRUSTでは、登記が不要なこと。
(2)「任意後見制度」では、家庭裁判所が選任する任意後見監督人が必要ですが、TRUSTでは監督人は不要なこと(つまり、国家の関与が不要)。
この(1)(2)の違いが法的に重要なポイントとなります。
(1)(2)を充たさないTRUSTを有効とするカリフォルニア州法の適用が日本の公序良俗に反する場合は通則法42条の公序則の適用により、排除されてしまいます。
TRUSTと公序則
そこで、次に、違う点(1)(2)を充たさないTRUST(これを有効とする州法)が日本の公序則に反するかどうか?が問題となります。
国際私法で準拠法が特定された以上、日本の公序則で安易にその適用を排除すると、価値中立的な立場から法の矛盾抵触を回避するという国際私法の趣旨を害します(公序則の発動を可能な限り抑えるという考え方です)。
この考えによれば、公序則の適用は、極めて制限されたものになります。おそらく、州法の適用を排除するまではいかないのではないでしょうか?(TRUSTEEは厳格な注意義務が課されていますから、一応任意後見監督人に近い監督の実効性が担保されているといえそうだからです)。
ただ、以上の考えは一つの考え方の筋であり、日本の裁判所が実際にどう判断するか定かではありません。
州法が日本に適用され、このTRUSTが日本において有効となるならば、TRSUTの即時改訂(若しくは撤回)が必要となります(依頼人はその内容が実現されては困ると変心していますから)。
さてさて、このTRUSTは日本において有効となるんでしょうか?
その結果次第では、帰国後に作成する任意後見制度の書面内容に影響が出るので、悩んでいるところです。
まずは、近いうちに、このTRUSTを作成したアメリカの法律事務所に行って色々聞いてきます(専門的な知識を依頼人は持ち合わせていないので、法的な質問は、事前に私が用意しておきます)。
冒頭のシーサーの写真
魔除けの意味を持つ「シーサー」を人類の、いや大げさすぎました、うちなーんちゅ(沖縄人)の後見人と見立ててみました。
ちなみに、任意後見制度よりも容易な手続で任意後見制度のように、自分の財産管理を任せる制度として民法上の委任契約があります。
この委任契約については、【真栄里孝也 行政書士事務所】>契約書の行政書士・真栄里孝也が作成いたしますので、是非ご相談下さい。
守秘義務
行政書士である私には、下記行政書士法12条により守秘義務が課されておりますので、秘密をもらすことはございません。
どうぞご安心下さい。行政書士法12条(秘密を守る義務)
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。